2015年 『西澤廣子作品集』

 

 

 

 

 

撮影:多田雅輝

編集協力:木本淳子

装丁:株式会社ザイン

プリンティング・ディレクター:三浦啓伯

印刷:(株)サンエムカラー

 

 

 

サイズ:A4変形

総頁:79頁

 


彦根在住の西澤廣子先生の作品集を制作させていただいた。サンライズ出版さんからのご依頼である。

 

西澤先生は、彦根の小学校で教鞭をとられるかたわら、水彩画を描いてこられた。このたび、米寿を記念して作品集を刊行されることになり、ご縁をいただいて制作を担当させていただくことになった。

 

西澤先生の絵の魅力は、何といっても、柔らかな光をたたえる透明な色彩の、微妙なあわいにあると思う。ケレン味など全くない。だから印刷で再現するにも、ポイントを強調してインパクトをつけることはできない。まして大きな絵を縮小して本にするのだから、淡い調子はなくなってしまう。予想以上に難しい仕事だった。

 

実は、校正ではもう少し濃く刷り上げたが、西澤先生のお知り合いの佐渡先生から、透明感が不足している点のご指摘を受けた。

そこでいろいろ考えた結果が、もう一段印刷濃度を落とせば水彩画らしい透明感がでるのではないかという見通しだった。

本番印刷の1台目インキ濃度の設定を校正よりも下げる指示をして、印刷オペレーターに透明感を出したい旨を伝えた。

紙にインクが乗って機械から刷本が出てきたとき、それは校正とは異なる微妙に濁りの消えた色目だった。

オペレーターと顔を見合わせて喜んだ。読みは間違ってはいなかった。この製版設計と印刷設計の組み合わせで、少しは西澤先生の水彩画のすばらしさが表現できたかと思う。

またひとつ、勉強させていただいた。

 

初めて水彩画の作品集の印刷を作らせていただいたが、水彩画の一番の魅力は、透明感にあることを考えていただいた。

 

油絵や日本画の絵の具は不透明で、下の色を隠蔽する。しかし、水彩画の絵の具は透明で、下の色を生かして描くことができる。この混色の際に、重なったところと重なっていないところができ、重なりのないところに特に彩度の高い部分が生まれる、これが透明感を表現している。

この透明感をどう再現するかが作品集制作のポイントだったと思う。

 

用紙は、水彩画用紙のイメージを生かした微塗工マット紙を選定した。そのなかでも比較的インク乗りがいい紙を選んだが、やはり微塗紙と比べると彩度は落ちる。

製版で極力濁りをおさえて彩度をだしたうえで、印刷ではインキ量は低めに設定した。

インクは濃くするとインパクトはでるが、どうしても色目が濁ってしまう。まして微塗工マット紙に刷る場合、インクが紙にしみ込んでしまうので濁りがでやすいためだ。