2015年 水野克比古写真集

     『重森三玲の庭園』

   

  発行: 光村推古書院

  装訂: 大西和重(ザイン)

  編集: 合田有作

  印刷: 株式会社サンエムカラー

  印刷設計:三浦啓伯(玄元舎)

 

  サイズ: A4変形 300×225mm 

  総貢: 128貢 

  平成27年1月28日発売

  定価:本体3800円+消費税

水野克比古先生が撮影された『重森三玲の庭園』の印刷を担当させていただいた。

重森三玲の主要な庭園が網羅されている写真集だ。通常公開されている庭だけでなく、一般には見ることが出来ない庭も含まれているので、この本によって非公開の庭園も鑑賞することができる。

 

重森三玲さんの業績は、昨年(2014)東福寺の本坊庭園、岸和田城八陣の庭が名勝指定を受けたことで揺るぎないものとなった。特に、岸和田城の庭園は戦後の作庭であり、戦後に制作された庭園では初めて名勝指定を受けたことになる。

 

この写真集を眺めてみれば、三玲さんがどれほど優れた芸術家であったかを理解することができる。精神性をもった庭、見るものに問いかけてくる庭、それが三玲さんの庭だ。

 

三玲さんの庭を見るといつも覚えるこの高ぶり。

三玲ファンの一人として、多くの人にこの本を手に取っていただいて、この感動を味わっていただければと思う。

 



水野先生の撮られた庭の写真には定評がある。それぞれの庭のポイントが確実に押さえられているという話は、あちこちで耳にする。その理由の一端が「あとがき」に記されている。

実は水野先生は、重森三玲さんから直接<庭の見方>の教えを受けられた、三玲スクールで学ばれた一人であったのだ。

水野先生の問いに答えられた三玲さんの言葉・・・『庭は、鑑賞者が座り、立つ位置から最も美しく見えるように作られているのだよ。』この言葉が一生の銘になっている・・・このように水野先生は述べられている。

そして、この教えを真正面から受け止め、その意味を繰り返し問い、日々精進してこられた結果が、その評価として表れているのだと思う。

水野先生が三玲さんから学ばれたということは、折にふれ私もお聞きしていた。

いつかは作品集としてまとめたいという希望を持っておられることも、また、『重森三玲自選作品集』のリストを三玲さんから直接うけとっておられることもお聞きしていた。

だから、どんな形であれ水野先生が撮られた重森三玲の作品集を見て見たい!・・・ずっとそう思っていた。

今、この本が出来上がった事、そして制作を担当させていただけたことは、仕事という枠を超えこのうえない喜びなのだ。

入稿の打ち合わせではまず、水野先生のこの本にたいするイメージをお聞きする。

そして版元の光村さんのこの本に対する位置づけを理解する。

A4上製本として大判の紙面のうえに、重森三玲の庭の力強さを水野先生の目を通した色調で表現すること、長期に亘って撮影取材された写真原稿を、このイメージのもとに統一感を持ってまとめること、これが今回の仕事の根幹である。

一昨年、惜しくも亡くなられた光村推古書院の上田啓一郎さんが、生前に、重森三玲の作品集の出版を決めたとおっしゃられた。

その時から出来るだけ三玲さんの庭を見ようとあちらこちらに出かけた。ご無理をお願いして、普段は公開されていない庭も拝見させていただくこともできた。

三玲さんの作庭の考えを知りたくて、著作を集め目を通した。自分なりに三玲さんの庭を見て、ディテールを記憶し、三玲さんの意図を理解したうえで印刷にあたりたいと思ったからだ。


原稿として写真に印刷指示を入れるにも、被写体を知っているのと知らないのとでは全く違う。

水野先生から色調の指示をお聞きするにも、実際の庭を見ていれば、おっしゃる意味がすーっと入ってくる。

庭石の重量感、石組みの力強さ、三玲さんが好んで使われた阿波の青石や鞍馬石の色、これを咀嚼し、具体的な指示として製版と印刷の現場に伝えるのが、私の仕事だ。

実際の庭を見ていれば、指示に迷うことがない。サンエムカラーの現場は、迷いがなければ的確に指示に応えてくれる。

 


上田さんが急死され、出版はどうなるのかと心配したが、合田さんがしっかりと後を引き継がれて刊行にこぎつけられた。

ザインの大西さんが、リズム感のある装釘をされた。カバーをはずすと現われる美しい表紙(2枚目の写真)も是非実物を手に取って見ていただきたい。