2016年 『極 茶の湯釜』

     ー茶席の主ー 

   

発行:淡交社

監修:原田一敏

企画・編集:MIHO MUSEUM

装丁・レイアウト:大西和重・大西未生(ザイン)

印刷:株式会社サンエムカラー

サイズ:B5変

総貢:336貢 

平成28年6月23日発行

定価:本体2315円+消費税

『極 茶の湯釜』の印刷を担当させていただいた。
7月31日までMIHO MUSEUMで開催されている「極 大茶の湯釜」展に合わせて淡交社さんより刊行されたもので、展覧会の図録を兼ねている。

監修は茶の湯釜研究の第一人者原田一敏先生。

 

内容は、初期の茶の湯釜 芦屋、天明釜から桃山期の与次郎釜、さらには江戸期の京釜までの名品100点に、関係資料9点をカラーで紹介するもので、重要文化財に指定されている釜は全て掲載されている。

 

掲載作品を使って、釜の各部位の名称や、釜の見どころとして、芦屋、天明、京釜の肌の違いなどが写真で説明されているので、この1冊でほぼ茶の湯釜のおおよそがわかった気分になれる。

加えて、原田先生の総論など3本の論考が掲載されており、茶の湯釜の変遷が茶の湯の変化に対応していることが理解できる。




本を手に取っていただけるとわかるが、ほんとうに渋い作りの本に仕上げている。照りを抑えた紙に、柔らかい光に照らされた釜が同じ位置にずらっと並んでいる。茶室のほの暗いなかでひとつひとつ釜を拝見しているような気分になっていただけるだろうか。
これは、監修の原田先生のご意向をもとに印刷設計したものだ。

 

釜は鉄で作られている。だから、写真を撮るとき少し強くライトを当てればきつく光る。しかし茶室にそのような光はない。作品によっては、明るく光らせてディテールがよく見えるように撮影された写真もある。そのまま印刷したのでは、ご意向に沿わない。製版の担当者に無理を言って、写真を修整しライトを抑えたうえで、さまざまな明るさでで撮影されている釜を、ほぼ同じようにやや暗めになるよう統一した。
原田先生は、この展覧会に4年の歳月をかけて準備されたとお聞きしたが、釜1点ずつほんとうによく色調を記憶されていた。こげ茶を中心とする釜の色目は、写真の再現もむずかしい。本来こげ茶である筈のものが青っぽく映っていたりする。私自身以前に拝見し、うっすらと色や質感を記憶しているものもあったので、そのイメージのうえに先生のご指示を重ねて1点ずつのイメージを作っていった。そのイメージを製版に伝えて色調を修整し、試し刷りを行って先生にご確認いただき、さらに修整するという作業を何度か重ねた。茶系の色は黄赤藍の 微妙なバランスでできているので、ほんのわずかなことで色目が変わってしまう。だから、印刷に際しても校正、本刷とも全て立ち会って、オペレーターにかなり無理を言って色目を整えてもらった。展覧会で原物を拝見したが、ほぼ大きな狂いがなかったので、ほっとしている。

 

釜のバックは全て同じグレーになっているが、これはデザイナーのザイン大西和重・未生さんのご指示によるもの。もともとほぼ全点べつべつであったバックを、製版で修整しうすめのニュートラルグレーに統一した。影を生かして揃えるのに苦心したが、本としてみるとやはり統一感があって、苦労した甲斐があったのではないかと思っている。

 

表紙カバーは、ほの暗い茶室で炉にかけた釜がうっすらと浮かび上がり、炭の火が印象的だという写真を印刷した。どこまで釜をはっきり見せるかに留意しながらまとめた。用紙の選定に当たっては、校正の折に照りのない柔らかい肌のこの紙と、もう一段紙肌に風合いがある紙の2種類で印刷し、ご覧いただいた。「これは、ややなめらかな芦屋の肌にするか、ザラついた天明の肌にするかの選択ですね……。表紙は芦屋でいきましょう。」原田先生の一言で現在の紙に決定した。

カバーもはずして見てほしい。こげ茶の厚紙に金系の特色で全面印刷し、文字だけをこげ茶で浮かび上がらせるという趣向。釜の微妙なメタリック感を表現している。なにから何まで、釜のイメージを表現しようとしたザインさんのアイディアである。

 

 


 

いままでこれだけの点数の釜がカラーで掲載された本は刊行されていないので、なんとしてもきちんとした印刷をしなければと思って進めていった。図版点数が多く時間も非常に限られたなかでまとめなければならなかったが、監修の原田先生、淡交社のご担当河村さん、MIHO MUSEUMの小山先生、デザインのザインさんが、ほんとうに熱意をもってあたっておられたので、お蔭でなんとかやりきることができた。
サンエムカラーのスタッフとしての仕事である。




 

 

『極 茶の湯釜』 が、第二十八回國華賞 「國華展覧会図録賞」を受賞しました。

 

2016年12月26日発売の「國華」誌上で、正式に発表されました。

この展覧会が美術史上において大きな意味があるとして、原田一敏先生及び「MIHO MUSEUM」が評価を受けたものです。

その中で、印刷についても評価をいただきました。

 

ここに、贈呈式のパンフレットから選評を抜き書き、掲載させていただきます。